枕草子 第67段「草の花は」 
 

作者名  清少納言 (ca.966-?)
作品名  枕草子
成立年代  ca.1008?
 その他  文中、【 】内にカタカナで今日の標準和名を示した。


 草の花は、なでしこ。唐の【セキチク】はさらなり、大和の【カワラナデシコ】もいとめでたし。をみなへし【オミナエシ】。桔梗【キキョウ】。あさがほ【アサガオ】。かるかや【オガルカヤ又はメガルカヤ】。菊【キク】。壷すみれ【ツボスミレ】。龍膽【リンドウ】は、枝ざしなどもむつかしけれど、こと花どものみな霜枯れたるに、いとはなやかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし。また、わざととりたてて人めかすべくもあらぬさまなれど、かまつか【ハゲイトウ】の花らうたげなり。名もうたてあなる。雁の来る花とぞ文字には書きたる。かにひ【不詳】の花、色は濃からねど、藤の花といとよく似て、春秋と咲くがをかしきなり。
 萩
【ヤマハギ】、いと色ふかう、枝たをやかに咲きたるが、朝露にぬれてなよなよとひろごりふしたる、さ牡鹿のわきて立ち馴らすらんも、心ことなり。八重山吹【ヤエヤマブキ】
 夕顔
【ユウガオ】は、花のかたちも朝顔に似て、いひつづけたるに、いとをかしかりぬべき花の姿に、実のありさまこそ、いとくちをしけれ。などさはた生ひ出でけん。ぬかづきなどといふもののやうにだにあれかし。されど、なほ夕顔といふ名ばかりはをかし。しもつけ【シモツケ】の花。葦【ヨシ】の花。
 これに薄
【ススキ】を入れぬ、いみじうあやしと人いふめり。秋の野のおしなべたるをかしさは薄こそあれ。穂さきの蘇枋にいと濃きが、朝霧にぬれてうちなびきたるは、さばかりの物やはある。秋のはてぞ、いと見どころなき。色々にみだれ咲きたりし花の、かたちもなく散りたるに、冬の末まで、かしらのいとしろくおほどれたるも知らず、むかし思ひ出顔に、風になびきてかひろぎ立てる、人にこそいみじう似たれ。よそふる心ありて、それをしもこそ、あはれと思ふべけれ。


 織りこまれた花   カワラナデシコセキチクオミナエシキキョウアサガオ、オガルカヤ又はメガルカヤキクツボスミレリンドウハゲイトウ、かにひはガンピか、ヤマハギヤエヤマブキユウガオホオズキシモツケアシ(ヨシ)、ススキ




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